久門剛史「トンネル」
このたびオオタファインアーツでは、弊廊東京スペースでは4年ぶりとなる久門剛史の個展「トンネル」を開催します。久門は、日常に散在する音や光、立体を用いて、鑑賞者の個人の記憶や経験をパラレルな異空間に誘うインスタレーションを創出する作家です。本展では、近年制作してきた作品の持つ要素を保ちながらも、その世界観をさらに深めた新作の立体および平面作品を発表します。
新作の立体作品において久門は、これまで多用してきた鏡は使わず、透明なガラスを用いて作品を制作しています。久門はこれまで様々な形で作品において“ズレ”を表出させてきましたが、ガラスケースの一部を丸くくり抜き、それを傾け回転させることで生じる今作の微細なズレは、透明で境界が曖昧な“気配”のような実体として作品に現れます。一方で、壁に投射されるスポットライトの丸い光は、形を持たないながらも強い存在感を示します。これまでモノ同士の関係性が作品の重要な要素となっていた久門にとって、モノの“気配”や“不在”を捉えて証明するかのような今展での行為は、今後の制作活動において大きな展開を予想させる新たな試みとなります。
久門は、円形のモチーフも作品において多用しています。それは円の数学的記述としての円周率が永遠に続いてくという“永遠性”と、どの値の規則も繰り返されることがない“唯一性”の双方を円が持っている点に起因しているかもしれません。新作ドローイングにおいては、円そのものではなく無限に続く円周率の値がシルクスクリーンのインクの濃淡の中に浮き彫りにされます。しかしそこで円周率は、円という絶対性を象徴するものというよりも、まるで靄のように朧げな存在感で画面に刻まれます。この作品でもまた、存在と不在、その間に横たわる曖昧な境界についての久門の考察が反映されていると言えます。
その“円”が延長され空間性を持てば、本展タイトルでもある「トンネル」になります。それは、目の前に広がる現実と別の時空間とをつなぐ通路としてのトンネルとも言えるでしょう。久門の作品は鋭い緊張感をもって観る者を引き寄せ、知覚の解像度を高めることを促し、そしてごくごく小さなそのトンネルの入口へと私たちを誘ってくれるのです。久門作品の詩的な世界観をぜひご高覧ください。
- 日程
- 2018年7月20日(金)〜9月1日(土)11時〜19時
- 休み
- 日・月・祝
- 出展作家
- 久門剛史
(敬称略)